2002-09-29

感覚



猛暑の最中、
いつものように、リビングのソファに座ってベランダ越しに空を眺めていた。
 
夏の空は青が強い。
どの季節よりも、青の効いた空のある夏が好きだ。
あの日の空は雲ひとつなく、私の好きな青だった。

微かな風がレースのカーテンを揺らす。
窓から来るその風が、外から帰って汗だくになった肌をやんわり乾かしていく。
徐々に汗がひいていくなか、熱りから心地よい涼やかさを感じていた。

不思議な感覚だった。
ただ空が青く、
風が心地よいだけなのに、
涙が流れ出る。

悲しかったわけではない。
さみしいのでもなく、悔しいのでもなく、
胸の内は温かく、つらつらと涙があふれてくるのだ。

大きな眼差しに包まれて感謝しているような、
誰も触れない森の奥深くで泉が昏々と湧くような、
理由も知れず意味不明な涙を流しながら、
安堵と静かな幸福感に体が満ちてくる感覚に浸っていた。

不思議で新鮮で、
なのに、それはまったく知らない感覚ではない。
古い記憶の蘇りに似たもののようだった。
だから、とりたててはしゃぐでもなく騒ぐでもなく、
夏の海岸で偶然拾った貝殻を何気なくチェストの上に置くように放置した。

秋が来るまでに、その感覚は二度やってきて、
三度目に、私は、あることを理解した。

その感覚。
いわば「状態」は、いつだって存在している。

この身を介する内と外。
内側で湧き続けるエネルギー。
外から包み続けるエネルギー。
どちらが先でも後でもなく、
いつからか、いつでも、この身とともに同時にあり続けている。
ただ、その状態を感知できるかしないかの違いなのだ。