「ご飯も何も要らないから、
やるべきことをさっさと終えて、
あたしはすべてを終わらせたいよ」
表情のない言葉を落とす、
彼女に悪魔は紳士を気取り、
そっと背後から顔を近づけ、
「またか」の溜息のあとに囁いた。
「そう都合よくはいかないよ」
振り向きかけた彼女の視界に、
時代遅れにお洒落ぶる、
白黒コンビの靴がちらりと映り、
悪魔はふわっと頭を撫でて
彼女を眠りに落として消えた。
どれほど眠ったか、夜は明けきらず、
目覚めた彼女は薄暗い部屋の
冷えたつま先をソファの上で
重ねあわせて身震い一つ、
今度は願うように天使に言った。
「ご飯も何も要らないから、
やるべきことをさっさと終えて、あたしはすべてを終わらせたいよ」
老けた赤ん坊顔のパーツを変えず、
天使はゆっくり小首を傾げ、
やおら、くるりと背を向ける。
ヴォリュームのある白い翼をひと羽ばたき、
彼女の顔を、ばさりと風で殴りつけた。
「生き急ぐなら、さっさとやりな」
幽かに響く捨てゼリフ、 光も残さず天使は消えた。
やらないうちから生き急ぎ。
「さっさと終わらせたい」なんて拗ね台詞。
1ミリでも、いや1センチ、
せめて今日、10センチを目指して進みたい。
本当のところは1メートル。
肩を落としていても、
本当のところは
光を掴みたい。